
ご存知ない方もいらっしゃると思いますが、現行の予備試験or法科大学院から司法試験という流れの制度の前は、司法試験一発勝負で司法修習行きが決まっていたのですね。
それを便宜上「旧司法試験」と呼ばせていただいていますが、その司法試験ってどんな試験だったか興味はないですか?今でも旧司法試験が予備校カリキュラムに取り入れている場合もありますしね。
私は旧司法試験からの移行期の社会人受験生でしたが、ここで旧司法試験と予備試験含んだ新司法試験の違いを比べてみたいと思います。
司法試験制度は目まぐるしく変更されていますが、私が知っている、新制度の前の制度を「旧司法試験」としてお話します。
旧司法試験とは
旧司法試験は新司法試験と同様に、弁護士・裁判官・検察官という法曹三者の登用国家試験でした。
旧試験は2000年から始まりましたが、2006年から新司法試験制度の法科大学院ルートも並行して設置されました。 この並行制度は経過措置として2011年まで続きます。
この年を最後に、旧司法試験は廃止され、同年より予備試験の実施が開始され現在に至っています。
旧試験の科目と日程
旧司法試験は予備試験と非常に近い形で実施されていました。 実施科目は
- 憲法
- 民法
- 刑法
- 民事訴訟法
- 刑事訴訟法
- 商法
の6科目です。
一次試験
一次試験は一般教養試験です。論文と短答がありました。
ここは特に受験資格要件はありません。年齢・学歴・国籍不問でした。 一次試験には免除制度がありました。短大以外の大学を卒業又は2年以上在学し、一定の単位取得者は一次は免除可というもの。
免除該当者は大学の成績証明書の添付が必要でした。 私は大学卒業後に司法試験の受験だったので、母校に成績証明書を貰いに行った記憶があります。その場でもらえたか、後日だったかは覚えていませんが。
二次試験:短答式試験
例年5月の10日前後の日曜日に実施されていました。短答式とはマークシート解答です。肢が5つあってそこから択一するのです。
受験業界では「短答」と呼んでいる人間はほとんどおらず、みな「択一」と呼んでいました。 科目は憲法・民法・刑法の「上三法」。20問づつの計60問。これを3時間30分で解答するのです。
必要以上に長時間と思われる方もいらっしゃると思いますが、1問につき3分30秒しか掛けられません。これ、結構過酷です。
三次試験:論文式試験
論文は択一通過した者だけが受験できます。例年7月の20日前後、土日の2日間かけて実施されていました。
論文試験は新司法試験の論文とほぼ同じです。六法を使用しながら試験を受験します。 科目は憲法・民法・刑法の上三法と民訴・刑訴・商法の計6科目。各科目2問づつで1科目2時間与えられます。
つまり、1日6時間を論文試験に費やします。これは択一以上に、真夏ということもありハードでした。
四次(最終):口述試験
論文突破した者は最終試験に臨むことができます。それが口述試験。
科目は憲法・民法・民訴・刑法・刑訴の5科目、ですが、口述自体は憲法・民事系・刑事系ということで行われます。法律のプロである試験官2人と受験者1名の面接形式で試験は行われました。
試験は質問されたことに解答する形で始まり進んでいきます。解答に詰まった場合に助け舟を出してくれることもあるようですが、緊張は半端ないようです。
時間はトータルで30分~60分弱。 合格発表は11月上旬。最終合格できれば、次はもう司法修習です。
旧試験の合格率
旧司法試験の合格率はいかほどだったのでしょうか。法務省にまだデータが残っていますので転載させていただきます。
2006年以降の新旧並行期は大きく合格率が下がっていてあまり参考にならないので、単独実施されていた2000年~2005年までのデータになります。
年度 | 出願者 | 短答合格 | 論文合格 | 最終合格 | 合格率 |
---|---|---|---|---|---|
平成12年 | 36,203 | 6,125 | 1,026 | 994 | 2.75 |
平成13年 | 38,930 | 6,764 | 1,024 | 990 | 2.64 |
平成14年 | 45,622 | 6,45 | 1,244 | 1,183 | 2.59 |
平成15年 | 50,166 | 6,986 | 1,201 | 11,170 | 2.33 |
平成16年 | 49,991 | 7,438 | 1,536 | 1,483 | 2.97 |
平成17年 | 45,885 | 7,637 | 1,454 | 1,464 | 3.19 |
旧司法試験と予備試験の違い
新司法試験の一部である予備試験は、旧司法試験と非常に似ている試験だとお話しました。共通点は多いが、もちろん、違いもあります。そこで2つの試験の違いについてお話してみたいと思います。
受験資格の違い
予備試験には受験資格要件は存在しません。年齢・学歴・国籍不問です。
しかし、旧司法試験にはいわゆる司法試験の前段階で一般教養の試験がありました。一般教養試験では受験資格要件はありませんでしたが、一定の学歴を満たしていれば免除され、二次の短答試験から始めることができました。
つまり、実質的には受験資格要件が存在していたのですねここをクリックすると同ページ内参照箇所へジャンプします。
科目の違い
まずは科目・科目数の違いです。旧司法試験は上記ある通り、一次を除いた法律科目は全6科目です。 予備試験は全部で11科目になります。その意味では予備試験の方が準備は大変です。
試験数の違い
予備試験はあくまで司法試験の受験資格を得るための試験にすぎず、予備試験合格しても翌年の司法試験に合格しないと弁護士にはなれません。
結局、司法試験合格までは大きな山2つ越えなければならないのです。 旧司法試験は試験一発勝負です。一般教養を除けば3回試験があり、全部合格すれば司法修習生になれます。
つまり、大きな山は1つだけということになります。
合格者数・合格率の違い
旧司法試験は、合格者数1000人程度に揃えており、実際に毎年1000人前後の合格者がいました。
合格率は3%切るぐらいです。合格者数はともかくとして、合格率はいかにも低いですよね。司法書士試験も低いですが、それでも3%台はあります。
予備試験も旧司法試験予備試験ほどではありませんが、かなりの低合格率です。最新の令和元年度で4.01%%、合格者数は476人でした。近年予備試験出願者が増加傾向になるとはいえ、法科大学院があるせいかまだまだ少ないです。
新司法試験と旧司法試験試験の違い
予備試験と旧司法試験を比べたのは、その実施等について共通点が多いからでした。何なら新旧の司法試験の違いはどこになるの?ということで、違いを挙げてみたいと思います。
受験資格の違い
旧司法試験では前述した通り、一次は受験資格要件はないが、学歴次第では免除になり二次の短答から始められるという事でした。 新司法試験では、予備試験合格者or法科大学院課程修了者しか受験できないようになっています。 司法試験の実施内容
科目の違い
旧司法試験は法律科目6科目でした(「旧司法試験の科目と日程」へジャンプ)。 新司法試験は短答と論文だけですが科目数は8科目になります。「司法試験の試験科目」参照ください。
日程の違い
旧司法試験は5月に始まり、3回の試験を経て最終的に合格者がわかるのは11月上旬です。
つまり、約半年の長丁場になるのです。 新司法試験は5月に集中して行われます。日程的には4日間ですが、中頃の土日は含んだ4日間、最初の3日間は論文試験、最後の1日は短答式です。短期集中型と言えそうですね。
合格発表は9月です。 ※司法試験は、2023年度より実施日程が従来の5月集中開催より7月中旬の集中開催になる予定です。
合格率の違い
前述のように、旧司法試験は3%を切る合格率でいかにも難易度が高い試験という印象でしたが、新司法試験はどうなのでしょうか。
令和元年度司法試験は、合格者数が1502人、合格率は34%でした。なぜ新旧でこうもかわるのでしょうか。受験生のレベルが上がったから?
新司法試験の合格率が高い理由
受験生のレベルが上がった、というのはその通りなのです。新司法試験の受験生は、予備試験という極めて厳しい試験を勝ち抜いている受験生だし、法科大学院という法律家養成機関で学んできた者たち。
多種多様の集合体であった旧司法試験の受験生に比べて、新司法試験の受験生レベルが高いのは、制度上当然なのです。
旧司法試験は難しすぎだって本当?
旧司法試験と新司法試験の難易度について議論があるのご存じですか?
「旧試験は難しすぎる!」「いや、新司法試験の方が難易度は高いよ」と、意見は別れています。
実際、どうなのでしょうか。 新試験の予備校の先生方は旧試験の方が難しいとおっしゃっている方が多いです。 その旧司法試験に合格もしていない私からあえて意見を言わせていただくと、「択一・論文いずれも、問題自体は旧司法試験の方が難易度高いが、試験トータルでは大きな差はない」といった印象です。
旧試験の方が難しいとは思いますが、難しすぎということはないと思います。
論文は旧試験と新試験の難易度に差がある
ただ、論文問題は旧試験と新試験では難易度に明確な差はあると思います。それは「問題文の長さ」が関係していると思います。 新司法試験では予備試験と共に論文の問題文は結構長いです。読むのも大変なぐらい。
それは、問われていることが明確ということを意味します。当然、答案も書きやすくなります。
旧試験の論文問題の難易度が高い理由
他方、旧試験の論文問題文は総じて短いです。これは問われていることを絞りづらいということを意味します。結果、答案は書きづらくなります。 何でしたら、旧試験では「〇〇について述べよ」的な、いわゆる「一行問題」も散見されていました。
これは、答案書くのにかなり大変です。もっと明確に問うてほしいのに… 予備校講師が旧司法試験の方が難しいと発言している主な理由はここなのですね。
予備試験には予備試験の難しさがある
もっとも、簡単に「旧司法試験の方が難しいよ」とは言えない部分もあるような気もします。それは、旧司法試験の論文と予備試験の論文は「難易度の高低は別にして質が違う」という事。
いずれの試験でも問題文を分析し論点を抽出して答案構成をしていくわけですが、予備試験は問題文が長い分、情報が豊富です。旧司法試験に比べて答案が書きやすいという面はありますが、反面、情報の取捨選択が必要です。その匙加減は予備試験ならではという印象があります。
現役受験生ではないのでこんな抽象的な表現しかできませんが、旧司法試験論文問題とは別の難しさが予備試験論文にはあると思います。
まとめ
すでに過去の試験である旧司法試験ですが、論文試験の難易度含めて新司法試験制度とは異なる部分もいくつかあるのですね。
新司法試験ももちろん難易度はきわめて高く大変な試験なのですが、旧司法試験の別の意味で大変な試験だったということです。 未だに予備校カリキュラムとして利用されている理由は、もちろん利用価値があるからです。