
2020年の民法改正には95条の「錯誤」も含まれています。タイミング的には2020年度(令和2年度)の各種試験には適用になるはずで、2020年以降の合格を目指している受験生は早急な準備が必要になります。
そこで、現行法と改正法を照らしつつ、ポイントと思われる点をわかりやすく解説してみたいと思います。少なくとも、この「錯誤」については大きく変わるわけではなくちょっとしたマイナーチェンジ程度のものだと個人的には感じているので、これまで勉強してきた方でもそれほどの戸惑いはないのかなと思っています。
それでは始めていきましょう!
現行法(旧法)と改正法の比較
まずは現時点での現行法(旧法)と新法の条文を見てみましょう。
現行民法第95条 錯誤
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
改正民法第95条 錯誤
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
改正法は4項までとずいぶん内容が厚くなってしまいましたね。ただ、現行法で明文化されていなかった部分が明文化された部分がかなり多いので、分量についてはそれほど気にしなくてもいいのかなと思います。
改正法のポイント
改正法のポイントは3点でしょうか。
- 錯誤無効→取り消し得る
- 第三者保護規定
- 「要素の錯誤」「動機の錯誤」明文化
「錯誤」改正法のポイントとして最初に挙げたいのは「無効」が「取消し」に変わること。「無効」と「取消し」は一見同じよなものと思いがちです。実社会ではそうかもしれませんが、民法の世界では似て非なるもの。あとで解説はしますが、まず第一に注意するべき点になると思います。
次ですが、取消し得る規定になったことによって第三者保護規定が置かれています。これまでは錯誤無効については第三者保護規定は置かれていませんでした。それが今回、善意の第三者に限り錯誤表意者は対抗できないとしたのです。
そして3つ目、明文化されていなかった部分が条文に盛り込まれた点です。現行法では「要素の錯誤」があれば無効だとしか規定されていませんが、改正法では「要素の錯誤」の要件が規定されており、さらに、原則錯誤無効にならなかった「動機の錯誤」についても規定されています。
ポイント解説
それでは改正ポイントの解説を行っていきます。
錯誤無効から取消しへ
現行法の錯誤は「無効」となっていますが、一般的に言う「無効」とは異なり、「錯誤無効」という一つの用語のような無効でした(「取消的無効」とも呼ばれていました)。本来、「無効」とは誰でもできる意思表示なのですが、錯誤の場合の「無効」は表意者のみしかできないとされていたのです。
また、「無効」はその意思表示期間に制限がなく、取引安全上、非常に不安定な状態が継続され得るものだったのです。
それが「取消し」に変わることによって120条~126条の取消しの規定が適用できますので、たとえ取消されても早期の法律安定性が担保できますし、そもそも取消し的無効だったので大きな混乱はないと思われます。
第三者保護規定
上記のポイントにも関連ありますが、取消しうるによって第三者保護規定が置かれました。現行法では置かれていませんでした。錯誤表意者に重過失ある場合は錯誤無効できないという制限は設けられていた(改正法でも継続規定「3項1号」)のですが、4項で善意の無過失の第三者に限ってはその取り消しは対抗できないとされます。
ポイントは無過失まで要求されていること。第三者保護要件としては結構厳格化していることに注意が必要です。意思表示の第三者保護規定に関してはこちらが参考になるかもしれません。(参考:『民法96条3項の解説「善意の第三者に対抗できない」とはどういう意味?』)
「要素の錯誤」「動機の錯誤」の明文化
3つ目は現行法下での判例の明文化です。
要素の錯誤
現行法の錯誤の一大論点とは「要素の錯誤」についてだったと思います。
すなわち、意志表示に
- 表意者が錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められる
- 通常人であっても錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められる
場合は「要素の錯誤」と認められ錯誤無効できるというものでした。
それが「要素の錯誤」という文言は使われなくなりましたが、錯誤が取り消せる要件を明文化した(1項)のです。
動機の錯誤
現行法では原則として「動機の錯誤」には錯誤無効は適用されず、例外的に「動機が表示され、それが法律行為の内容となっている」場合には錯誤無効できるとされてきました。
改正法では1項2号で「動機の錯誤」について書かれていますが、2項によって「動機の錯誤」が取り消し得る要件について明文化されました。
改正民法95条の構成
改正法のポイント面からの解説をしましたが、条文の構成をおさらいしてまとめておきましょう。表にしてみましたので参照いただければ幸いです。
内容 | |
---|---|
1項・1号 | 錯誤取消しができる場合(「要素の錯誤」) |
1項2号 | 「動機の錯誤」(2項とペア) |
2項 | 「動機の錯誤」によっても錯誤取消しができる要件(1項2号とペア) |
3項 | 1項に当てはまる場合でも錯誤取消しができない場合(表意者重過失要件)とその例外 |
4項 | 第三者保護規定(錯誤取消しが制限される場合) |
まとめ
いかがでしょうか。
改正法から民法を勉強する人はともかくとして、現行法(旧法)から民法を勉強されている方は、少なくとも95条に関しては現行法の理解が非常に大事になってきます。なにが「要素の錯誤」「動機の錯誤」なのか?という事例はそれなりに表示されていますし、「表示の錯誤」とはどういったものか?ということも現行法で十分学べます。
実際に施行されてもしばらくは判例が出てきませんので、現行法をしっかり勉強しつつ、改正法でマイナーチェンジを図るというスタンスで勉強するといいと思います。