私人対私人でも人権保障は妥当するのか

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マスメディアは「第四の権力」と言われています。
意味はいうまでもなく、司法・立法・行政という3つの国家権力に匹敵、あるいは同視出来るほどの社会的影響力を持つという意味でいわば揶揄された意味合いで使われますよね。

国家権力自体、マスメディアに翻弄されている部分もありますので、国家権力以上に力は強いかもしれません。 それほど強大な社会的影響力を持つマスメディアが、たった一人の国民の人権を侵害することが多々あります。プライバシーの侵害であったり、容疑の段階であたかも犯罪者の如く扱って名誉を棄損したり・・・

このような場合、憲法を適用して人権を侵害される国民を救済出来るのでしょうか。

「かわいそうだから憲法を適用して救済してあげればいいじゃないか」とお思いかもしれませんが、話はそうすんなりとはいかないのです。

なぜならば、憲法問題とは国家権力対私人(国民)の対立図式です。憲法の持つ実質的原理は、国民の人権を保障するために国家権力を制限するための規範なのですから。

私人間効力の問題の所在

しかしながら、マスメディアの場合、一部を除いて民間です。つまり、対立図式では私人対私人です。

本来、このような私人間での問題は「私的自治の原則」ということで私人間にて解決を図るべきという原則があります(「民事不介入」と同じような意味ですね)。

しかしながら、私人間での紛争でもいち一般市民と国家権力をも凌駕するほどの巨大マスメディア。一般市民には相手が大きすぎます。このままでは救われない。 こう言った私人間の問題で憲法を適用して救済していけるのか、していくべきなのかの問題を私人間効力と言います。

聴き慣れない単語でしょうが、問題の中身は非常に身近なものです。

私人間問題でも憲法を適用すべきかすべきでないか

本来は私人間の問題では憲法での救済を適用できないんです。なぜならば、一般社会では「私的自治の原則」が妥当するから。

「契約自由の原則」という原理があります。

一般社会では、公序良俗に反していたり、違法な契約でなければ原則としてどんな契約事でも認められています。これは、国民が社会生活を営む上で重要なことであるし、ある意味「個人の尊厳、個人の尊重」という日本国憲法の根本的価値観にも担うものです。

実際、このような理由から私人間の問題で憲法を適用すべきでないという説もあります。(無効力説)


他方、立憲的憲法の趣旨は、力の無い者が、力のある者からの理不尽な仕打ちから守るために生まれた規範です。一般社会ではそういった場面が少なくありません。

マスメディア対個人、大企業対個人・・・。

こういう民間でも国家権力並の影響力を持つ団体が存在する社会になってきたのだから、立憲的憲法の趣旨から私人間でもそのまま憲法を適用するべきだという説もあります。(直接適用説)


しかし、私人間でもそのまま憲法を適用するとなると、私的自治の原則や契約自由の原則というものはほぼ無になってしまうでしょう。

何でもかんでも「人権侵害だから憲法違反!無効!」なんて世の中、想像してみてください。通常の想像力がある方なら理解出来ますよね?


そこで、「間接適用説」という考え方があります。つまり、私人間の問題は憲法を直接適用するのではなくて、間接的に適用する。

私人間で問題が起きた時、憲法規定を直接適用するのではなく、憲法的価値観を私法(民法や商法)の一般条項に取り込んで間接的に適用する。

私法の一般条項とは、民法の1条、90条、704条あたりがそうです。

民法第1条【基本原則】

 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。

民法第90条【公序良俗】

 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

民法第709条【不法行為による損害賠償】

 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

例としたらこんな感じです。

民間企業が従業員の就業規則で、男子定年年齢が60歳、女子が55歳と定めていた。 性別による不合理な差別は憲法14条の「法の下の平等」に抵触する可能性があるが、この14条の価値観を公序良俗(民法90条)の解釈として取り込んで、公序良俗違反として無効になる。

参考元:日産自動車事件

憲法判断の話ではないので、「違憲、無効」とは出ません。あくまで民事の私法による判断なので「違法(あるいは無効)」と出るだけです(民法709条適用なら損害賠償請求の話も出てくるでしょう)。

なお、憲法25条の生存権については、権利の性質上、私人間での適用はありません。逆に、同じように権利の性質上、私人間にも直接適用べきとされる憲法規定もあります。

第25条

1  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

第15条

 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

第18条

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

第24条

1  婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2  配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。

第27条3項

 児童は、これを酷使してはならない。

第28条

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

判例の立場は間接適用説です。

「三菱樹脂事件」という有名な事件がありますが、この事件の最高裁判決で、間接適用説を採用しています。
思想・信条を理由とした採用の可否→ 重要判例 -三菱樹脂事件-
政治活動を理由とした退学処分の可否→ 重要判例 -昭和女子大事件-


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