長沼事件
事案
防衛庁(当時)が、国有保安林にミサイル基地を建設するため、当時の農林大臣が国有保安林の指定を解除を許しました。
この国有保安林指定解除には法律上の縛りがあり、森林法26条2項の「公益上の理由」でなければ指定解除はできず、当該指定解除はこの「公益上の理由」に当たると言うことです。
これに怒ったのが地域住民です。
憲法9条があるのだから、そもそも「公益上の理由」などないとして、当該農林大臣に対して処分の取り消しを求める訴えを提起しました。
争点
争点はいくつか挙げられますが、ここでは日本国憲法前文に関連ある争点だけご説明します。他はまた別個ご説明します。
それは、前文2項にある「平和的生存権」という権利は、裁判規範性があるか否か。
すなわち、前文には日本国憲法の各規定と同様に、裁判における争点として取り上げるに足りる性質を持ち合わせているのか、ということです。
例えば、ある法律があったとして、それが著しく平等原則を欠く法律だったとします。
それは、14条の「法の下の平等」に反するとして訴えることが可能ですが、これは前文にある「平和的生存権」を根拠として同様に訴えることは出来るのかどうかということです。
前文は各規定と同様の立場なのか、それとも、各規定とは違う性質、いわば「宣言文」みたいなものなのかと。
判旨要約・解説
札幌地裁 昭和48年9月7日判決
平和的生存権が「第三章の各条項によって、個別的な基本的人権の形で具現化され、規定されている」。
日本国憲法第三章は、前文2項で謳われている平和的生存権を具体化したものであるとしています。
つまり、前文の裁判規範性を肯定する判決を出しました。
この裁判、その他の争点も相まって、自衛隊を違憲と判断しています。
しかし、これは地裁レベルの判断です。国は当然に控訴。
札幌高裁 昭和51年8月5日判決
平和的生存権は解釈基準にはあり得ても、裁判規範ではない。
前文の裁判規範性について、控訴審は一転否定しました。つまり、前文を根拠にして裁判で争うことはできない、としました。
ただし、「解釈基準ではあり得て」と、前文の法規範性は認めています。
法規範性があるとはどういうことでしょうか。つまり、
- 本文の各規定と同様に、前文を改正する時は憲法改正手続を経る必要がある。
- 前文も98条の憲法であるから、最高法規として法律等を拘束する。
ということです。
この裁判は、「前文は憲法の一部であるが、あくまで各規定の解釈基準にすぎないのであって具体性に欠く。よって、前文には裁判規範性は認められない」としています。ただし、最高裁はこの前文の裁判規範性について、現時点では明確な答えを出していません。
ちなみにこの裁判、この控訴審で終わっています。裁判所がこの事件について審議するのを止めたからです。理由はかなり難しい話になるのですが、9条の問題もありますので後に少しづつお話しさせて頂きます。
