天皇の権能について
摂政
- 第5条【摂政】
皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
「摂政(せっしょう)」とは、天皇の法定代理機関のことで、天皇が何らかの理由で国事行為を行うことが出来ない状態にある場合に機能する機関です。
天皇の国事行為代行機関ではありますが、摂政がが行う国事行為はまさに天皇に代わって行う行為であり、天皇の場合と同じ法的効果があります。
ただし、摂政は象徴としての性格をも代行するわけではなく、あくまで国事行為の場面においてのみの代行になります。
国事行為
- 第3条【天皇の国事行為と内閣の責任】
天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
- 第4条【天皇の権能の限界、天皇の国事行為の委任】
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
「内閣の助言と承認」の意味についてですが、これは天皇の国事行為については、内閣がその政治的責任を負うという意味になります。
なぜこのような規定が置かれているのでしょうか。
これは、1条の「象徴天皇制」規定とあわせて考えて頂きたいと思いますが、象徴にすぎないということは、天皇は政治的権力は持てないということに他なりません。
そして、7条の国事行為は極めて政治色の濃い行為かつ国家元首たる行為ですが、そこには内閣の助言と承認が必要、つまり、その国事行為は天皇の権力行使ではなく、内閣の「助言と承認」という名の拘束を伴うということです。
逆に、天皇は内閣によって拘束されているわけですから、政治的責任を負うということはありません。
余談ですが、天皇は大和時代以降は一部を除いて大政奉還までは国政には携わっていません。これは、日本史を学んでいる人にはお分かりだと思いますが、政治は変われど摂政や征夷大将軍等を置いて国の運営は他の機関に任せています。
明治から戦争までは色々な意見がありますが、少なくとも江戸時代までは国家権力=天皇ではありませんでした。
その意味では、現在と似ていますね。
| 条文 | 国事行為 | |
|---|---|---|
| 6条 | 1項 | 国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命すること |
| 2項 | 内閣の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命すること | |
| 7条 | 1号 | 憲法改正、法律、政令および条約を公布すること ※予算、条例の公布は含まない |
| 2号 | 国会を召集すること ※参議院の緊急集会は含まない |
|
| 3号 | 衆議院を解散すること ※判例では実質的解散権は内閣にあるとする |
|
| 4号 | 国会議員の総選挙の施行を公示すること ※補欠選挙は含まれない |
|
| 5号 | 国務大臣および法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状および大使および公使の信任状を認証すること | |
| 6号 | 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を認証すること ※決定は内閣でなされる |
|
| 7号 | 栄典を授与すること | |
| 8号 | 批准書および法律の定めるその他の外交文書を認証すること | |
| 9号 | 外国の大使および公使を接受すること | |
| 10号 | 儀式を行うこと | |
| 96条 | 2項 | 憲法改正を公布すること |
ご覧のように、天皇のお仕事にはかなり政治的な行為があります。
例を挙げますと、7条3号の「衆議院を解散すること」などは政治的行為そのものです。明文規定はありませんが、内閣の権能(東京高判昭28.9.22)とされています(参照:69条)。
天皇は決定事項にハンコを押すのみ、といったイメージです。衆議院解散の過程に関して、天皇はまったく係わることはありません。
衆議院解散の際、衆議院議長が「憲法7条の規定により衆議院を解散する」といった宣言があったりしますが、いずれにせよ、天皇の形式的な承認がないと解散は出来ません。その意味での解散決定権者は天皇と言えますが。
衆議院解散の場合、69条と7条3号の1セットが必要ということです。(※)
また、8号、9号はまさしく対外的に国家元首たる権能ではあります。こういう点を注視して、天皇が日本の国家元首であると主張している学者・有識者もいるようです。
海外ではそう見ている国が殆どと聞きますが、日本国内では法的にはあくまで「象徴」になります。
衆議院の解散についての補足
※詳細は「内閣」の章でお話しようと思っていますが、実は実質的な解散権については学説の対立が激しいところではあります。
現在のところでは7条に根拠がある説が通説となっていますが、他にも69条説、65条説、制度説などの説があります。
また、69条では不信任決議が可決された場合の解散しか明文はありませんが、昭和28年9月22日苫米地事件控訴審(東京高裁)で以下のような判旨がありました。
「憲法69条は、同条所定の場合に限り解散できるとする趣旨の規定ではない。憲法はいかなる場合に解散をなしえるかについては、何らの規定も設けておらず、 政治的裁量に委ねている。解散権を形式上、天皇に帰属せしめ、政治上の責任を負う内閣の助言と承認の下にこれを行使せしめるのが、本条の趣旨である」
つまり、衆議院の解散はなにも内閣不信任決議の場合だけではなく、民意を問う意味での解散もあり得、内閣の裁量に委ねられている部分もあるのだとしています。
2005年の郵政解散もこの判決を根拠にしているわけで、繰り返しますが、明文規定があるわけではありません。
学説でもこの自律的解散を肯定している説が多数ではありますが、グレーな解散とも言うことが出来、議論が必要かもしれません。
皇室の財産
- 第8条【皇室の財産授受の制限】
皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜 与することは、国会の議決に基かなければならない。
8条は、一言で言えば、皇室の財産の流れに対して民主的コントロールを及ぼすということです。
皇室の財産は国家予算の計上されるもの (88条)ですが、私有財産を持つことを憲法上禁止されているわけではありません。
理屈では皇室財産の授受もあり得るわけです。
ただし、その授受に関して、国民の代表者である国会の議決を必要とすることによって不明瞭な財産の流れを阻止し、民主的コントロールを及ぼすという趣旨によって規定されるものです。
